ぼっち飯

NANAKO NO KABEUCHI

未がいっぱいコレクション

未完のCablepool未満

デッドプール死にます予告(こう書くとなんかあれ)が出た時に書き始めた、ケーブルが死んだどこかの時代だか世界線のデッドプールデッドプールが死んだ世界のケーブルのなんやかんや。見てると捏ね繰り回したくなってまたお蔵入りしそうだから全く見直さずにあげるますごめん。自分と解釈違い起してたらどうしよう。ひー…

最後の台詞を言わせたくて書き始めたせいで行き詰まった。死んだら完結させようと思っていたら、死に方…というか爆発というかなんというかがアレだったので宙ぶらりんのまま未完。そのうちがばっと弄れば完結させられるだろうか

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最悪の休日ってのが、誰にでもあるんだろうな?俺は運命論者っわけじゃねえが、でもヤッパリ、どう足掻いても避けられない日があんだと思う。生まれた瞬間にカレンダーに丸がついてる。油性インクの、シンナー臭い、真っ赤な滲んだ印だ。
もう随分と前の事だけど、確か、多分月曜日だった。もしかしたら水曜かも。なんにしろ世間一般ではウィークディだった筈だ。俺の稼業は基本、というのはつまりうっかりなんかのチームに入ってるんじゃなきゃフリーランス──ウザいボスの代わりに俺が契約してるのは俺自身の気分って奴で、だからその日は休日だった。そういうことだ。

休日に何をするか?丁度実入りのいい仕事が終わったところだった。デリヘル呼んで俺の肌にビビんない子までチェンジを繰り返し、挙げ句の果てに夜景の綺麗なホテルかなんかでベッドが壊れるまでセックス三昧なんていうのもそりゃ中々悪くはない。悪くはないが俺に言わせりゃ、そりゃ金と時間の使い方を知らねえ奴がする事だね!ほんとの金持ちってのは、金を焦って使わねえのよ。時間もドル札もたっぷりあんなら、たっぷりでっぷり余らせときゃいい。特に俺の場合、時間の方はフリービュッフェだ。というより、あれかね、ワンコソバ!!問答無用で足されてくんだからやんなっちゃう。
そんな訳で、悠々自適の貴族様の俺はピザ屋のねーちゃんに電話をかけ(セクハラ紛いの台詞でビビらすのも忘れない)、Xboxを引っ張りだし、フライパンを火に掛けた。油の染みた鉄板がパチパチハミングし始めたら生地をぐるりと落とす。パンケーキに重要なのは鉄板の温度だ。俺の耳はこのフライパンがどう啼くかよく知っている。今よ来て、と彼女が囁いたら、俺は応えてやれるって訳、まさに男の中の男よね?
気分は上々だった。電話を取ったピザ屋の声は割りかしセクシーだったが、配達員はその比じゃなかった。雨に濡れたコットンシャツがオリーブ色した肌に張り付いて、黒いブラジャーのレースが透けて、もうエロいの何の!雨の日に紫のシャツ選ぶファッションセンスは勲章もの!よっぽどチーズの匂いをさせたココア色の髪に鼻を埋めて一発しけ込もうかと思ったが、俺はなんと、大人しくピザを受け取ってドアを閉めた。一つ目にゲームがやりかけで、二つ目にベッドがロマンチックな雰囲気とは言い難い状況で、三つ目に一度に2人の女っていうのは男のロマンにしても骨が折れるもんだからだ。俺にはとびきりアッツくて気難しい鉄のハートのハニーがもういたのさ、言ったろ?
俺はノブから手を離した。
そこで雷が落ちた。ラッキースケベを届けてくれた雨雲は、そこまでハッピーな気分じゃなかったらしい。
家中の電気がブッ飛んだ。ボリューム最大で叫んでたテレビが黙り込み、ヒトラーの要塞を抜けたゲームのデータは吹っ飛び、柄にも無くビビった俺は全部載せのLサイズピザをカーペットに落とした。べしゃっと鳴った音はとても食いもんの立てた音とは思えなかった。厚紙の容器からでろりとはみ出すトマトソースとトッピング。悪魔の赤い舌。外は厚い雲のせいで真っ暗、部屋も真っ暗、砂糖と小麦粉が焦げたすえた甘苦しいウザったい臭いがそれから暫くは壁紙にへばり付いていた。

なんでこんな話をしたのかって言うと、何事もタイミングが大事だと言いたかっただけだ。
一旦デスクに引っ込んで弾丸を装填する。天板の裏までこんなに磨かれた机は高級品だろうな?光を真っ向から反射して、虹色のフレアの中に赤いマスクが映って見える。鼻をすんすん鳴らしてみるが、結局マホガニーの匂いを嗅ぎとることは諦めて手元の銃に集中した。俺はプロだから、いざって時に弾が無いなんていう凡ミスは滅多にやらかさない。慎重だとか思慮深いって言うよりこれは、靴底のガムみたいにべったり身に染み付いた習慣だ。剥がそうとしても剥がれない。五挺だろうが十挺だろうが、持ってる銃の残弾数はイカれた頭のはじっこでキッチリ把握してる──それが愛ってもんよ。
腹一杯になった子供達をガンベルトに帰し、ピストルの安全装置は外したままでじっと待つ。息を止めたままで唇を動かす。的を撃ちたいならまず待つ事だ。隠れん坊で遊んだことある?こいつも基本はそれと同じ、きっちりカウントダウンしてやりゃいい。
一歩、二歩。
タイミングが大事なんだぜ。もう言ったっけな?
三歩、四歩、五歩と半分。
「バアイ」
これで計58人目──48だっけか?38?そこんところの記憶にあんまり自信は無い。ゲームみてえにコンボカウンターが鳴る訳でもあるまいし、俺にとっちゃ残弾数よりは格下の数字だ。終わった事よりそれからどうするかが大事ですって、学校でもそう習うもんだろ?流れ星が数えて貰えるのは精々10個まで、そっから先はよっぽどの物好き以外誰も、光の筋を一個一個追おうとはしないもんだ。大概の奴は『無数の流星』だの『シャワーのように降り注ぐ星』だので一括り、だから俺もそうしている。
マスクの頬っぺたに付いたべとつく体液を手の甲で拭って、口笛吹き吹き強面だったSPを見降ろした。即死かね?ここまで淡々と仕事をこなしてた反動か、至近距離からの連射を叩き込んじまったせいで首から上が原型を留めていない。浮いた左脚を跨いだ足裏でぐちゃりと神のみぞ知る何かが潰れた。これが流星?笑えるね。

それとも地に落ちた石ころの末路なんてこんなものかもしれない。

そこで完全に肩の力を抜いて、俺はかつてオフィスと呼ばれし広い空間を見回した。シェイクスピアのセリフみてぇだな!元々開放感溢れるガラス張りだったけど、今や更に視界良好──うーん、床に転がったカウボーイズのキャップがまた哀愁を誘うな。舐めたみたいに光ってんのはガラス片のせいだけじゃないだろう。ここにゃ優秀なテキサス州民が居た訳だ。今じゃ天国の住人だろうが、ひょっとするとスーパーボウル辺りで墓から這い出てくるかも。そうなりゃ俺のコミックはゾンビ界隈に移行か。
ファンが泣いて喜ぶね。
破片も払わずキャップを被って、砕け残ったガラスに向かって笑った。

靴が落ちている。

初めはそうは見えなかった。磨かれた石張りの床はまるで火器の見本市だ。構える間も無く殺られたか撃っても意味が無かったかはたまたその両方か──拾った銃の重さを手で測りながらそう考える。
歩きながら床に放ったフル装填のままの数挺が、背後でガツガツと尖った音を立てた。
白い床に黒い拳銃。モノクロームの色彩を見せる床で、ピンク色の靴は異質だった。だから目に付いたのだし、認識に時間がかかったのだ。混乱の最中に転がったのだろうが、何万年と前からそこに置いてあった置物のように鎮座しているから、直ぐにはそれと気付けなかった。踵の高い、手で折れそうな造りの靴は、持ち上げると予想外に重い。こういう靴はそういうものか?それとも踵に鉄棒でも仕込んであんのか?
どちらにせよ、持ち主はサブマシンガン片手に沈黙している。

返事は望めんだろう。

ねじくれた素足の右脚の隣に靴を置いてやってから後ずさった踵に別の身体が当たる。縞の入ったスーツ。死後硬直の始まった、鋼のように硬く張った手には手榴弾が握られたままになっている。そこで思わず舌打ちした。ピンが半抜きだ──危ない所だった。
これだけ死体があっても、景色はやはり殆ど白黒写真も良いところだった。白い廊下、黒いスーツ、白いシャツ、武器は大概黒、血の気の無い肌に開いた穴に僅かに血が滲む。女たちの脚は破れたストッキングに包まれてなお白い。即死体の沼を掻き分けて、ようやく非常階段のドアに手を伸ばした。
ノブに一瞬は指を掛けて、俺はそれからまた手を戻した。引いた手をそのまま、ホルスターの銃まで滑らす。重い武器を衣擦れの音と共に引抜く。
そこで振り返って抜きかけのピンに照準を合わせた。後から来た素人がうっかり触れたら危険だ。失われる命はもうあそこには無い。せいぜいあの靴が融けるくらいだろう。
爆発の光はどこででも同じだ。未来でも過去でも、宇宙ででも。星だってその命を終えれば爆発して光を放つ。そしてその光を、今度は自分で飲み込むのだ。

ゲームのお決まりに乗っ取れば最後はボスとの対戦、社長室と言う名のバトルフィールド。コツは手早く、ケチらず、一気に片すこと。
「夜の星はきらきら輝く、Deep in the heart of Texas!」
半日がかりでやっとこさオールクリア──予想よりは手間取ったものの、ここで俺の仕事はお終いだ。
終業のベル、帰り支度。汚れたマスクを取り替えながら俺はテキサスに愛の歌を捧げる。典型的なカントリー調の陽気なメロディー、サボテン、コヨーテ、うさぎにカウボーイ、気分はガイドブック──監視カメラが回ってないのが惜しいね。
「プレーリーの空は広く青い、Deep in the heart of Texas!」
なんで歌ってるのかって聞くなら、追悼歌さ、どっかに転がってるアメフト野郎の。キャップを頂いちまったから、これって恩があるっていう奴だろ。そういう奴の事はやっぱり悼んでやるべきなんだろうなァと思った訳だ。顔も知らねえけど、そもそもホントの友情って死んぢまってから生まれるものじゃない?違う?

返事は聞こえない。

歌声がする。
「...思い出す 私の愛を」
声がする。
「Deep in the heart of Texas!」
その通りだと内心で返事をした。そうだ、お前はここにいた。だから今歌われても遅いのだ。もっと前から歌っていれば、もっと早く見つけられたろうに。

いつでも歌っていればもっと見つけ易い。

タイミングの話に戻ろうぜ!
死なない──死ねない俺だって、何も時間の流れから超越してるって訳じゃない。そりゃまあたまにはタイムトリップだのアース越えだのするけどよ、普段はちゃあんとマトモに時を刻んでる。テレビの番組表はチェックするし、お仕事の待ち合わせはするし、キッチンタイマーだって持っている。時計を家に置かないとかいうスローライフ族よりよっぽどマトモな生活してるね!
フツーの人生を一個の時計とするなら、違いは俺のは丸じゃなくて螺旋階段だってだけだ。行き着くとこが無いだけ。
ところがごく稀に、俺の文字盤と針と歯車をぶっ壊して土足でずかずか踏み込んでくる礼儀の欠片も無い奴がいる。
「で、タイミングとしてはどうなんだ」
「もっのすごいマイルドに言って『最悪』」
「へえ?」
ムカつく相槌に眉を上げる。振り返れば無言の抗議を分かっててスルーしてるに違いない涼しい顔と目があった。
「帰って欲しいのか?」
俺は返事をしなかった。だってテンプレみてえなもんだろ。ビッグマック並みに大量消費されて、今やいい加減誰も彼も聞き飽きたやり取りだ。
代わりに僅かに口の端を吊り上げた顔から床に目を向けて、さっき放り投げたピストルを拾い上げる。安全装置を掛けてガンベルトに戻す手を目で追われてるのは分かっている。だから余計に時間を掛けたのに、なんでだよ、こいつ顔の筋ひとつピクリと動かしゃしねえな!
さて人間、質問されりゃ返事したくなるもんだ。クエスチョンとアンサーはセットだろ?
だけど今ばかりは、素直に返事をしようとする俺を封じ込めなきゃなんなかった。なんでだよの答えを認める訳にはいかなかった。そういうタイミングだから。そういう時だから。
代わりにすっかり萎えちまってるお喋りな傭兵を舞台の真ん中に引っ張り出して腕を組んだ。対抗心という名のバイアグラは功を奏した──奏しすぎたね。
「そんで、何しに来たわけ?」
言った瞬間にまずったな、と内心悪態をついた。我ながらひっどい台詞!ソープドラマなんかで女主人公がふいに現れた元カレに言い放つヤツだ。典型的、感傷的、感情的、そのどれ一つも今の俺は望んでいやしないってのに。
「他に言う事があるんじゃないか?」
「挨拶とかか?お久しぶりですね?ハーイ元気にしてた?新しいコスチュームがお似合いですね?」
「そこまで新しくはないさ」
「お前にとっちゃそうだろうが、俺にしたら...」
「似合うと思うのか?」
こいつは、本当に、俺の話を聞いていないようで聞いていて、聞いているようで聞いていない。いつでもそうだった、と考えてからセンチメンタルの匂いを嗅ぎ取って鼻に皺を寄せた。今はそういう場合じゃない。
「...何があった?」
そこでやっと、ネイトは保っていた表情を崩して目を細めた。
俺は俺で、側に転がっていた椅子を起こして座る事にした。さすが社長室って感じの、ヘッドレスト付きのキャスターチェア──血で濡れているのは今更気にしない。欠点がある程愛しやすいもんだろ?
ただ座った事で、こんなに首に負荷がかかることになるのは失念だった。頚椎が折れちまいそう。只でさえ規格外の身長の男は、それに気づいたかオーディオセットのスピーカーに腰を下ろして俺を(正確には俺のマスクを、だけど)見返した。今の奴がどんだけ重いのかしらないが、如何にも高そうなスピーカーの耐重性に期待するばかりだ。
「知りたいか?」
「知りたいって言ったら教えてくれんのか?」
「...ウェイド」
我儘なガキを宥めるみたいな声だった。振り回されるのは俺の方だっていうのに大抵な言い草!そんでもマジで最悪な事に、そーゆー言い方をされると自分でもそう思えてくるのが最悪だ。クソ、文法までガキ並みか。
首を振った。聞き分けのいい子供の仕草だ。
バックトゥーザフューチャーから代々繋がるお約束ってやつだろ。どっちにしろ、またお前に会うのは随分先だろうし」
「思うほど待たせはしないさ」
「それはご親切なことで」
ネイトは笑った。スピーカーの木枠がギギ、と苦しそうな音を立てる。椅子代わりのそれを俺がじっと見ているのに気づいて、口角を上げたままどうしたと聞いてきた。
「いや、いっそ潰れちまったらおもしれーなって」
「持ち主も今更文句は言えんしな」
窓際に転がったままの死体を思い出して、今日初めて俺は後悔って奴に足を突っ込みかけた。ありゃほんと、キャンプ場の最悪なトイレみてえなもんだよな?穴掘っただけのさ。
「わりとまともな仕事だぜ、今日は。普通のサラリーマンなら──」
「あんな武器は持ってない。大方組織丸々企業に偽装してたってとこだろう」
「あったり!」
段々調子を取り戻しつつある。ヒュウ、と口笛を鳴らして、内心安堵に溜息をつく。
「でもザンネン、残弾数はゼロ、キャップは俺のかわいこちゃんだから絶対渡さねえ。賞品は我慢してねサマーズくん?」
「そうか、俺はお前と話せりゃ十分だ」
思わず手元が狂って、指先で上手いこと回ってた帽子がすっ飛んだ。チームシンボルの星を背負ったキャップは、それこそあのアメリカンヒーローのシールドよろしく壁に激突した。

なんだって?

壁に跳ね返って転げ落ちた帽子を惜しそうに見つめて、それでも取りに行くことはせずに、ウェイドは俺に視線を戻した。
それだけで笑みが浮かぶ。会いに来た甲斐があるというものだ。非難じみた目線に隠れるものを俺はよく知っている。お前だって知っているのだろう。俺がここに来た理由を聞かずとも知っているのだろう。なら両成敗という奴だ。
「ホントに...ホントに」
組んだ脚を解いて、前のめりにこちらを一瞬睨みつける。それからまた、溜息と共に椅子に背を預けて脚を組んだ。
「...馬鹿だぜ、ネイト、お前ホントに馬鹿みてえだ」